原稿用紙

不思議な原稿用紙が
今 目の前にある。

この原稿用紙に 思い出を書き入れると
その部分だけが、私の記憶が無くなってしまうのだ。

すらすらと書けば書くほど思い出が無くなってしまう。
まるで、記憶が原稿用紙に移行したように。
それでは、困るかと言うと
実は困らない
その原稿用紙を読めば、記憶はクリアに蘇る。
そして不思議な事に原稿の文字は全て消えてしまう。
あたかも、記憶が一人歩きしたかのように
私の記憶が原稿用紙に、原稿用紙から私の記憶へともどる。

誠に不思議な原稿用紙なのだ。

問題はウソは書けないと言う事だ
だから、自分に都合の良くは書けない。
あくまでも記憶にあるものだけが、原稿になるのだ。

そうそう、もうひとつ
もし、それを違う人が読んでしまえば、
それは、その人の記憶になってしまう。
試しに、実にくだらない思い出を
あれは、そう、なんだったかな?
まあ、実に下らない思い出を嫁に読ませたら、
記憶に張り付いたらしく、私は嫁に 
「君にとって実にくだらない思い出を教えてくれ」とお願いしたら、
顔を赤らめ、絶対イヤと拒否されてしまった。
内容はさだかではないが、あれはたぶん私の記憶が移ったのだろう。
そのあと原稿用紙を見たら白紙になっていたのだから。

そんな原稿用紙が今私の目の前にある。

実は私はこれを利用してある事を計画している。
それを今日、実行しようと思っているのだ。

一歩間違えば、命を落としかねない。
しかし、うまくいけば、永遠の命を与えられるかもしれない。

私は原稿用紙にペンを走らせた
おわり と
記憶に無い事だったので、
書けるはずがないと思っていたのだが
と、妙に頭がすっきりしてきた。
いったい、なにを書いたのだろう。

そんなとき、嫁から声をかけられた。

ね〜え、私のお財布しらない?

ああ、それなら、たしか、、、、

といって立ち上がって歩き出した。

たしか、昨日の晩に、たばこを買って、それから、玄関において、
それより、あの財布は去年の誕生日に君にかってあげたものだろう。
あれは、けっこう高いものだったんだが、実はディスカウントショップで、、、、

私はいったいどうしたんだ。
普段から無口で必要な事のみを完結に話す私が
どんどん、しゃべって止まらなくなる。???

それより、さっきからずーと歩いて部屋の中をぐるぐる回っている。
これじゃ、精神病患者か、織の中のゴリラだ。

いったい?

もう、すっかり忘れたが、
これはさっきの原稿に書いた事が問題に違いない。

私はあわてて原稿を掴み、読み始めた。

と、とたんに
意識が無くなり、私はその場で倒れ込んだ。

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