キノコ

世界で一番小さな森に住むヌーおばさんが作るキノコのスープは最高だ
そのスープは今までに味わったどんなスープよりもおいしい。
僕の陳腐な表現ではとても言い表す事などできない上等なものだった

霧が小さな森の全てをおおい隠すときだけ、おばさんはそのスープを作る。
スープに入っているキノコが、その森のその時しか取れない特別な物だからだ。

そのキノコは霧で全てが真っ白で隠された時だけ発見できる幻のキノコだ。
全てが真っ白に覆い尽くされた時にほのかに光る場所がある。
そんな場所にその幻のキノコは生えている。

取り立てが一番うまく、時とともにすぐに風化してしまうそんなキノコだ
僕が食べたのは4.5歳の時だろうか
僕はあまりのうまさにスープを飲み干すとともに気絶した
次の日また、あのスープを飲ませてと頼んだのだが、
おばさんが出した物はごく普通の味になっていた。

それから30年、僕はあのスープの味を忘れた事はない。
今日は濃霧、1m先もわからないほどの真っ白の世界だ。
こんな時はあのスープが飲みたくたまらなくなる。

僕は、いてもたってもいられなくなって、
真っ白い森を彷徨った
しかし、いくら彷徨ってもおばさんの家にはたどり着けない。
あきらかけた時に、僕は道に迷っている事に気がついた。
今が昼なのか夜なのかもわからなくなっていた。
ほとほと歩き疲れて地面にへたりつくと
目の前に
光る
キノコが
あった。

「ああー」とため息にも似た声で
手を差し出し
その幻のキノコを掴み、
おもむろに口に運んだ
一口噛んだその時、
僕はまた気を失った。

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