がっかり

クリスマスの朝
起きたら、テーブルにできたてのチキン、スープ、ケーキがおいてあった。
プレゼント?
一人暮らしのぼくには、いったい誰のしわざか、まったく、見当がつかなかった。
「サンタ」とぽそっと呟いたが
30も半ばのぼくにとって、それはありえないし、
こんな、親父になってまで、サンタの名前が出る自分にあきれてしまった。

しかし、あながち、サンタというのもはずれてはいないかもしれない。
テーブルの上に食べ物と一緒に靴下がおいてあったからだ。

まさか、
「親父!親父だろ!」ぼくは大声を出した。
「まだ近くにいるはずだ。」
スープの湯気の出方から見て、絶対、近くにいるはずだ。
あわてて、ドアを開けて外を確かめた。
周りを見る。いた、やつだ!

「まて〜、こら〜」
親父だ。あの後ろ姿、あの逃げ方。親父に違いない。
「まて〜」ぼくは必死に追いかけた。
日頃の運動不足か?
ぼくより20も上の親父に追いつかない。
それどころか、離されてゆく。

「はあ、はあ、だめだ」
情けない事に1分もたたないうちにネを上げた。

「くそ、親父め! 今度会ったらぶっ飛ばしてやるはずだったのに…」
肩を落とし、部屋に戻った。
「かあさん!」
驚いた。親父どころか、かあさんがテーブルでゴハンを食べている。
「かあさん!」
「おかえり」と母は笑顔で迎えた。
「いったい、どこに行ってたんだよ!探したんだよ!おれ!20年も、いったい、どうしてたんだよ」
「ん?そうだった?20年?」
「そうだよ、ぼくが高校から、帰ってきたら、家に誰もいなくて…」
もう、そこからは涙が止まらなかった。
「たまに ヒック 借金取りが ヒック お金 ヒック おれ ヒック がんばって ヒック 返して ヒック でも、また ヒック 借金取りが ヒック 来て ヒック また返して ヒック また来て ヒック 俺もう どうしていいのか? ヒック」
「そう」久しぶりに母のひざで泣いた。

しばらく泣いていた。
気が付くと もう母の姿もない。

まぼろしか?

いや、食べかけのスープが…

もしや、
あわててタンスの通帳を見にいくと。
無い。
通帳がない。

「やられた」

がっかりと肩を落としテーブルの椅子に座った。

 

▼Back

presented by kuwajima