超能力者

超能力とは、誰でも持っているものある。
よっぽど鈍いヤツでない限りは、愛の告白の前に
「ああ〜、これは告白されるな」と思うだろうし
壊れた時計が動き出す事くらい だれもが経験しているのだ。

さてさて、超能力者として生きていると
たまーにスプーンを曲げたくてしかたない衝動にかられる。
そんなときは個人経営のお店というより
チェーン店に行ってスプーンを曲げる。
なるべく見つからないようにやるのだが・・・

「ちょっと、お客さん
 だめだよこんなにスプーン曲げちゃ」

「あ、すみません。お金 払いますから」
「お金の問題じゃないんだよ ちょと事務所来て」
「いや、すいません。ほんとうにすいません」
「いいから 裏の事務所にいきましょうか」
 私は腕をつかまれて連れて行かれてしまった。

「あの、本当にすいません。つい」
「つい?」
「すいません。警察だけは、弁償しますから」

「…」

「君… 超能力者だろ」
「え!」
「わかるよ」
「え!」

「ここだけの話… おれも」
「え!あなたもですか?」
「そう」
「よかった〜」
「よか〜ないよ」
「あ、すいません」
「まあ、いいよ。気持ちはわかる」
「じゃあ、あなたも、スプーンを良く曲げてるんですか?」
「そう、実はスプーンを曲げたいから、ここのカレーチェーン店にアルバイトしてるの」
「わかります。抑圧されてますもんね。ぼくたち」
「そう、そう、たまにはね。こうクルクルと」
そういって、スプーンをもってぐにゃぐにゃにした。

「すごいですね。よくそこまでぐにゃぐにゃにできますね」
「いやいや、馴れですよ。こんなもん。誰でも出来ます」
「いや〜、なかなかそこまでは、」
「そうですか?君だってフルパワーを使えばすごいんじゃないの?」
「いや、こんなもんです」

といって、スプーンにパワーを入れた。
半分ぐらい曲がった所でポンと折れてしまった。

「力が強すぎるんですよ。もっと肩の力を抜いて」

「はい…
 できた。出来ました」

「そうでしょう。誰でも出来るんですよ」
「使わない筋肉を使うようなもんですね」
「そうそう」
「君、あれはできる?」
「あれ?」

「物体浮遊」
「え、いやちょっと」
「できない?簡単だよ。ほら」
「浮いてる!これ、手品じゃないですよね」

「て、じ、な!?
 俺の一番嫌いな言葉!」
「いや、いやわかります。ホントにね」

「簡単だよ。最初はほらコンパスの針を動かすとこからやれば誰でもできるよ」
「そうなんですか?」
「そうだよ。君だってスプーン曲げたじゃん」
「いや、それとこれとは違う筋肉のような」
「うーん?おんなじだよ」

「じゃ、これはテレポーテイション」
「ええー!」
「簡単だよ ほら」
「うわー、今スプーンがここからそこに行きましたよね!」
「そうそう。ね、簡単でしょ」
「いや、わたしにはちょっと…」
「違う筋肉を使うようなもんだって」
「そうですか」

「じゃ、これはテレパシー」
「え、できるんですか?」
「できるよ」
「今、しゃべってるの これ さっきからテレパシーだよ」
「ええー、気が付かなかったな!もう」
「簡単だよ。違う筋肉!」

「なんか、すごいですね」

「じゃ、透視は?」
「ええー、それも」
「今、見るね。君はずいぶん剛毛だな」
「こんなに服を着てるのに丸裸ですか。今の私は」
「ああ、盲腸の後あるね」
「はい」
「へその横にちょっと大きめのほくろも見えるな」
「はいはい」
「君、ちょっと胃が荒れてるね。痛いでしょ」
「そうなんですよ。最近特に」
「医者にいったほうがいいよ。すぐ直るから。他は…心配ないよ」
「ありがとうございます」

「あと、あれできる?」
「あれ?」
「カメハメハ」
「え、かめ?」
「ほら、手から火の玉作ってさ」
「ええ〜それも」
「簡単だよ。違う筋肉使うようなもんだって」
「いまやると火事になっちゃうからね」
「は、はい やらなくていいですよ。」
「あと、あれは」
「あれ?」

「ほら、メタモルフォーゼ。変形だよ」
「ええー、つまり変身?」
「うん、まあ、そんなようなもの」
「できないですよ」
「簡単だよ。ほら」
といって青年からとびきりの美女に変形した。

「すごい、めちゃ好み」
「うん、心の中読んだからね」

「あの〜ひとつだけ質問なんですが」
「うん?」
「なんで、こんなカレー屋でバイトしてるんですか?」
「え、さっきも言ったじゃない」
「たまに、むちゃくちゃスプーンを曲げたくなるからだって」
「はあ?」


人のこころはわからないものである。

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