癖になりますから

「ちょっと困りますよ」
「た、たのむから」
「やだ」
「お客さん」
「ねえ、ほんと頼むよ」
「絶対やだ!」

ほんの10分前までは、僕たちは楽しく最高にHappyだったはずだ。

「おいしい!ここのイタメシ!最高!うふふ」
「そうだろ!ここ最高なんだよ!ちょっと無理してるけどね」
「うふふ」
なーんて、ワインを飲んでいたのだ。
なのに・・・

「そろそろ、出ようか?」
「ええ」
「君!会計を」
「は!」

なーんてカッコつけて店員を呼び出したまではよかった。
まさか、
会計が5万6千円だと、知るまでは

いや、お金は結構持ってきたんですよ。

僕はカードを持っていないから、
男ですからね
何かあるかもしれないですし、
ね、期待もあるわけですよ。
で、財布の中身が5万5千9百円

予定では
2人で2万の食事して
3万のラブホってかんじだったんですよ。
でも、
5万を越えるなんて、夢にも思わなかったですよ
だって、計算して食事を頼んでいたんですから、
ワインだけですよ
彼女に任せたのは
そんな高いワインだなんて
知らなかったんです
そんなにうまいワインでもなかったですよ
それが・・・

いや、もうこうなりゃいいんです。
ホテルもあきらめますしね。

ただ、
100円足りない。
ね。わかります。
僕は彼女に100円貸してって言っただけですよ。

くれじゃないんですよ。貸してですよ。
それなのに、やだ!の一言ですよ。
あの高いワインはこいつがほとんど飲んだんですよ。
なのに100円も貸せないとは

「わかった。あとですぐ千円にして、返すから、今だけ、今だけ貸して!」
「やだ!」
「ちょっと、お客さん!頼みますよ」

そんなやり取りがもう何十回と続いているんです。
お店もそれを見ているなら
そろそろ見かねて100円くらい、
負けてくれればいいのに
と、思っていた。

「じゃ、わかった!
 100円 貸してくれたら」
「1万やる」
彼女は少し考えたようだが、
すぐに「やだ」と、答えた。

「なんで?なんで貸してくれないの?」
僕は泣き言をいいだした。
「くせになるから」
と彼女はきっぱりといった。
くせってなんなのだ。
緊急事態なのに
自分も食ったのに

「あの〜」
「私お貸ししましょうか?」
と、見知らぬお客が申し出てくれた。
たすかった〜と思い
「すいません、それじゃあ、お言葉にあまえて」という前に
「いいです!」と彼女が強い口調で断った。
「くせになりますから!」
と、最後に付け加え。

おいおい、今はそれどころじゃないはずなのに

くせって何だよ。
おれはお前と主従関係を結んだ覚えは無いぞ。
いったいこのピンチをどうしろってんだ。

「ちょっと困りますよ」と、お店の人が言い出した。
「お客さん」
「100円くらいいいですから、あまり騒がれても」
「よくありません!」
彼女が言った。

えー?いったい僕にどうしろって言うんだ。この女。

「じゃあ、僕にどうしろと?」
と、彼女に哀願すると
「私の事、好きですと言って今ここでKISSしなさい。そして、」
「私を一生幸せにすると誓いなさい」

回りがどよめいた。
どうやら、さっきからこのやり取りを
回りの人たちが聞いていたらしい。

えー、こんな女と〜
私はそう思いながらも
小さな声で
「あなたの事が好きです・・・」

「声が小さい!」
僕はもう半分やけになり
「あなたの事が好きです。
 あなたを、一生幸せににします。
 どうか、結婚してください」
と大声で叫び。

キスをした。

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